マジックのセリフには、現象に関する説明が含まれることが一般的です。しかし、過剰な説明をしてしまう場合もあります。この記事では、マジシャンにとっては当たり前であっても、観客が聞くと違和感を覚えるセリフについて考察します。
原則としては、観客に聞かれてもいないことを答えない、追われていないのに逃げない1、ということになります。特に、演技に不安がある、種を気にしている、といった場合、弱気になって過剰な説明をしがちなので注意が必要です。
マジックを演じるようになると、こうしたセリフをつい口に出してしまいがちなので、仕方ない部分もありますが、自分の演技を見直すときなどに、意識してみると良いと思います。
種も仕掛けもありません
種や仕掛けの存在を暗示するセリフです。これはマジシャンのお決まりのセリフとして、そこまで気にしない場合もありますが、道具には種や仕掛けなど無いというのが前提ですので、聞かれてもいないのに答える必要はないです。
まだ何も起きていません
この「まだ」という単語には注意が必要です。これから対象に何かが起きることを示唆しています。観客は、まだ何も起きていない対象に注意を払うようになるため、その対象をすり替えたりする場合など、シークレットムーブに気づかれやすくなるリスクがあります。
一方、意図的にこのようなセリフを取り入れれば、シークレットムーブ等から観客の注意を逸らすことができるともいえます。戦略的に利用してみるのも面白いかも知れません。
普通のトランプです
普通ではないトランプが存在することを暗示しています。「こちらのトランプを使います」で十分です。
マジシャンにとっては、レギュラーデックとトリックデックは別物なので、使用するトランプがレギュラーであれば、なおさら普通であることを強調したくなると思います。しかし、普通でないトランプの存在を示唆してしまうと、普通かどうかなど気にもしなかった観客に、普通ではないトランプが出てくるのではないか、といった疑念を抱かせることになります。
終わりに
以上、マジックのセリフにおける過剰な説明について考えてみました。もちろん、上記のような過剰な説明を控えた方が良い、というのは原則的な話です。場合によっては、このようなセリフが効果的に機能することもあるので、演技次第という話にはなります。今後、このようなセリフを見つけたら、また追加していきたいと思います。
検索用キーワード
- 松田道弘(1993). 松田道弘 あそびの冒険 2 超能力マジックの世界. pp. 72-73.
- アル・ベーカー
参考文献
- 松田道弘(1993). 松田道弘 あそびの冒険 2 超能力マジックの世界. pp. 72-73
松田氏は「追っかけられてもいないのに逃げる必要はない」というアル・ベーカーの言葉を引用し、過剰な証明が、かえって観客の疑念を生むことに言及しています。 ↩︎